研究概要 |
昭和61年度にひき続き, 生理実験とモデル構築の両面から解析を進めた. 1.生理実験:(1)ウリキンウワバ(鱗翅目ヤガ科)のコーリングリズムを駆動する脳の光受容部位が脳間部神経分泌細胞附近と特定できたので, 光刺激に対する電気生理反応の記録を試みた. しかし複合電位, シングルユニットからの電位, 神経分泌細胞からの軸索を含む側心体神経のスパイク電位, のすべてにわたり, 光に即応答するタイプの反応は得られなかった. このことは脳光受容が網膜細胞のそれとはかなり異なることを示唆している. (2)光受容能と時計を容する脳を構造的に把握するため, 脳の連続切片を渡銀染色法などで染色し, 各ニューロパイルの立体配位と主な神経連絡を解析した. またアルデヒドチオニン染色法により神経分泌細胞の配位についても知見を得た. (3)後述のモデルの根拠を与える目的で, セロトニンと重水(D_2O)の投与実験を行った結果, コーリング行動が消灯で発振する振動子の特定位相にカップリングしていることが裏づけられた. 2.モデルの検討:(1)日長の違いに対するコーリング時刻の調節反応を, 日長を測る砂時計型反応による振動子の位相制御モデルにまとめ, その基本部分についてコンピュータで運用できるようにした. (2)さらに, 発振機構をも包含する神経回路網モデルの構築でも進展をみた. すなわち興奮性, 抑制性の2成分からなる神経回路網とその状態方程式を規定し, どのようなパラメータの条件の時に振動が発生するかをコンピュータシミュレーションによって解析した. さらに安定平衡状態を振動とが共存する系を考えることにより適当な刺激によって状態が安定領域外に出て発振が開始されるシステムが可能であることもわかった. これに位相制御の特性を組み込むことができればモデルとしてきわめて有効なものになると考えられた.
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