研究概要 |
1)家蚕貯蔵タンパク質の精製法について検討した。熱処理,硫安分画,イオン交換クロマトグラフィで行う従来の精製法と異なり、本研究においては硫安分画,ゲルろ過クロマトグラフィ,Con-A sepharoseを用いる吸着クロマトグラフィの組合わせによる精製法を確立した。2)2種の貯蔵タンパク質のうち、雌特異的なsp1には遺伝的な変異があり、通常の系統では多種の高重合体を形成する点に特徴がある。この高重合体さらにそれ以上の凝集体の形成は還元剤を用いることによって抑制することができた。このことから、高重合体の形成には酸化条件が関与すると考えられた。一方、sp2(アリルフォリン)はアルカリ条件下でサブユニットの解離がみられたが、これは他の鱗翅目のアリルフォリンでは報告されていない。化学的性状としては、両者とも糖タンパク質であることが確認され、等電点はpH6付近であると推定された。3)家蚕の発育過程においては、貯蔵タンバク質は1令3日には検出され、幼虫の令が進む程体内における畜積が高まってくる。しかし、眠期においては血液中の濃度の減少がみられ、眠期の組織形成にも変態期と同様に、血液中の貯蔵タンパク質が利用されることが推察された。変態期においては貯蔵タンパク質は脂肪体に畜積され、その後消失していき、成虫あるいは卵においては検出されなかった。4)sp1における雌雄差の発現には内分泌的な環境が関与することが明らかになった。JHを5令幼虫の初期に投与すると永続幼虫となるが、その際sp1の雌雄差は少くなり、雄においてもsp1の畜積がみられた。5)幼虫の血液中の貯蔵タンパク質の畜積量は栄養条件の変化によって影響された。組成を変えた人工飼料を用いて試験したところ、飼料のタンパク質含量によって貯蔵タンパク質濃度も変動を示した。6)sp2は他の野蚕にも血清学的に類縁関係をもつものがみられたが、sp1についてはクワコ以外にはみとめられなかった。
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