研究概要 |
アクアライシンI(aqualysin I)はグラム陰性の高度好熱性細菌Thermusaquaticus YT-1が菌体外に生産する耐熱性のアルカリ性セリンプロテアーゼである。この酵素のN末端とペプチド断片のアミノ酸配列を決定し、これに基づいて15〜17塩基からなる3本のoligodeoxyribonucleotideを合成した。これをプローブとしてT.aquaticusのDNAのPstI断片(約1.1kb)を大腸菌HB101とpUCベクターを用いてクローニングし、1,105塩基の塩基配列を決定した。この塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の1つは、終止コドンを1個も含まないopen reading frameからなり、酵素タンパク質から決定された計103残基のアミノ酸配列と一致した。化学分析によれば、アクアライシンI(成熟酵素)はN末端がAlaで、GlyをC末端とする284残基のアミノ酸からなり、分子量は約28,500である。アクアライシンIの遺伝子の成熟酵素をコードすると考えられる領域のアミノ酸配列から得られる残基数は281(分子量28,349)で、化学分析によるものと良く一致した。得られたアクアライシンIのアミノ酸配列はproteinase K、thermitase(以上はアクアライシンIと同様システインを含む酵素)、subtilisinなどのセリンプロテアーゼのものと高い相同性を示し、活性中心付近での相同性は特に高かった。大腸菌においてlacプロモータによりこの遺伝子を発現させたが、プロテアーゼ活性の上昇はみられなかった。また、高度好熱菌においてクローニングしたアクアライシンIの遺伝子を発現させることも試みたが成功しなかった。従って、本研究においては、大腸菌や枯草菌などの宿主-ベクター系においてアクアライシンIの遺伝子を発現させる系を確立することが今後の大きな課題である。それにより、本年度中には出来なかったが、遺伝子操作によるアクアライシンIの改造が可能となる。
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