研究概要 |
大豆11Sグロブリン(グリシニン)は, 大豆タンパク質の主成分でマルチサブユニットタンパク質であり特徴的な4次構造を持つ. 本研究では, グリシニン分子が会合してストランド状の高次会合体を形成するという性質すなわち分子間相互作用能をグリシニンの機能的属性とみなし, この機能とタンパク質構造の相関について解析を行ない以下の成果を得た. (1)グリシニンは酸性ポリペプチドと塩基性ポリペプチドのそれぞれ1個がジスルフィド架橋により結合したサブユニットが6個集まって1分子となっている. サブユニットの種類はイオン交換クロマトグラフィーにより4種に分けられ, 酸性ポリペプチドの名称を用いるとASI, ASII, ASIII, ASIVの4種のサブユニットが存在する. これら各サブユニットは高次会合体形成時のグリシニン分子間の相互作用において特徴的な寄与をしていることが明らかとなった. (2)グリシニンの構成サブユニットのうちASIサブユニットについて全1次構造を決定した. 他のサブユニット種に関する既報のデータとの比較検討から, グリシニンを構造する各サブユニットはN末端側からの高類似領域, 変動領域の配置の点ならびにシステイン残基の分布に関して高い類似性を示し基本的に共通な1次構造であることがわかった. (3)高次会合体はストランド状であることからグリシニン分子間の相互作用は分子表面の限定された領域で起こると推定されるとともに疎水性相互作用がこれに関与することがわかった. サブユニットの1次構造上の特徴を考慮するとこのような特異的疎水性相互作用の発現に1次構造中の変動領域が重要な役割を果たしているものと推定される. また, 高次会合体形成時のもう一つの分子間相互作用であるジスルフィド結合の形成に関しては, 1次構造中に見い出される遊離のシステイン残基が重要な役割を果たしているものと考えられる. 以上, グリシニンの構造・機能相関論を展開しうる新知見が得られた.
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