研究概要 |
人工のアミノ酸であるβ-クロロアラニンはいくつかのB_6酵素の自殺基質となり酵素の活性中心近傍を攻撃する親和標識試薬としてB_6酵素の研究に用いられてきた. 一方B_6酵素の中でもα1β-脱離やβ-置換反応を触媒する酵素群にとっては反応に際し, 酵素の自殺は起こらず, β-クロロアラニンが大変良い基質となる. また最近β-クロロアラニンの工業的レベルでの安価な生産が可能となりつつある. そこで本研究においてβ-クロロアラニンを有用アミノ酸に酵素的に転換することを試みた. 我々が土壌より分離したβ-クロローL-アラニン耐性菌Bacillus sphaericusL-118のO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼは培地中にβ-クロローL-アラニンを添加することによって数倍に増大生成された. 本酵素はβ-クロローL-アラニンを良好な基質とし, サルファイドの存在下でそれをL-システインに転換した. 本反応の最適化を試みたところ, 30゜C, 2時間の反応で80%の転換率で70g/LのL-システインが合成された. 本酵素はL-システインの分解反応は触媒しないためL-システイン合成に適している. またβ-クロローD-アラニン耐性菌Pseudomoras putidaCR1-1を土壌より分離した. 本菌はβ-クロローD-アラニン添加によって誘導的にその分解酵素β-クロローD-アラニンクロリドリアーゼを生成することを見いだした. 本酵素はサルファイドの存在下でβ-置換反応をも触媒しD-システインの合成反応をも触媒した. 最適反応条件下で100%の転換率で22g/LのD-システインが合成された. またサルファイドのかわりに種々のチオール類を添加することにより, 各種D-システインの誘導体を酵素合成することが可能であった. D-システイン誘導体は半合成セファロスポリン合成にたいへん有用である. このようにβ-クロロアラニンをL-システイン, D-システインおよびその誘導体に酵素的に転換する方法を確立した.
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