研究概要 |
本研究は容易に量産可能な微生物の生産するキチナーゼやニワトリ卵白リゾチームのもっている糖転移作用を利用して有用オリゴ糖の生産を試み, バイオテクノロジー分野における溶菌酵素利用技術の開発を目指した. Nocardia orientalis IFO12806株及びTrichodermareeseiの生産する菌体外粗酵素画分から, 各種クロマト操作により前者から1種(N-1), 後者から2種(T-1, T-2)のキチナーゼを分離・精製した. これら標品が極めて強い糖転移能を有することを発見した. 即ちN-1, T-1酵素ドキトテトラオース:(GlcNAc)_4を高基質濃度下作用させると糖転移作用により2糖単位で鎖延長を行ない, 最初の基質あたり20〜23%という高収率でキトヘキサオース:(GlcNAc)_6を生成することを見出した. 一方T-2酵素は(GlcNAc)_4から2糖, 3糖単位で鎖延長し, (GlcNAc)_6及びキトヘプタオース:(GlcNAc)_7を生成した. このように本酵素法は一段階の操作で簡便かつ迅速に生理活性を有する高級キトオリゴ糖(動・植物細胞免疫賦活能等)の調製が可能である. 次にニワトリ卵白リゾチームを用いて, キトペンタオース:(GlcNAc)_5を供与体, P-ニトロフェニルーN-アセチルーβ-D-グルコサミニドを受容体基質として, 高濃度親水性有機溶媒(40〜60%)存在下で反応させたところ, 糖転移作用によりP-ニトロフェニルーN-アセチルーβ-キトペンタオシド:PNP-(GlcNAc)_5が効率よく生成してくることを発見した. 本酵素のPNP-(GlcNAc)_5生成に及ぼす種々の影響を調べたところ, メタノールよりもジメチルスルフォキシド添加の糖転移能を促進させる優れた溶媒であり, その生産性をも向上させる効果のあることを明らかにした. このようにして得られた新規化合物PNP-(GlcNAc)_5は人尿リゾチーム, ニワトリ卵白リゾチームの酵素活性測定基質として, 高感度でしかも再現性においても優れた基質となりうることが判明した.
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