研究概要 |
エゾマツ(Picea ie zoensis)の天然更新を阻害する要因として, 冬期積雪下で種子を侵す菌類, 種子の定着から発芽までの環の乾燥害の原因となる土壌層の含水率の変化, 稚稲の生育器官の受光量と生長量について検討した. エゾマツ種子を侵す菌として, 積雪下の林床で越冬した種子から20種類以上の糸状菌を分離した. これらの中で, 圧倒的に多かったのはRacodi um therry anumであり, 比較的多く検出されたのは, Arthiriumと未同定のW.C.1, W.C.3であった. これら4種の菌を人工接種し, エゾマツ種子に対する病原性を検討した. その結果, エゾマツ種子を侵害し腐敗させる菌はRarodium therryanumのみであり, 激しい病原性を示した. 本菌は, 土壌層位別ではL層およびF・H層に多く生存しており(L層での感染率70%), A層では表層部は汚染されている内部に入るにしたがい減少する. また, 0°Cおよび5°Cの温度下では, 90日間で種子の健全率はゼロとなったが, -5°Cでは種子の健全率は殆ど変化しなかった. 多積雪地帯の地表部の温度は, 厳冬期であっても0°C前後の温度が維持されており, 体菌による種子の腐敗は十分に起こりうる. また, 北海道の腫瘍な針葉樹4種の種子の本菌に対する感受性はアカエゾマツが最も大きく, エゾマツ, トドマツ, カラマツは同程度であった. 土壌層位別含水率の変化も2年間測定したが, 最上層のL層は20〜70%と変動が大きく, 時に種子の発芽期にあたる6月の含水率は20%で乾燥が激しく, L層に載っている発芽段階に入った種子は, 容易に乾燥死することが予測される. したがって, L層の乾燥は菌害とともに重要な更新阻害要因であることが判明した. 稚苗の生長と受光量については, 稚苗の更新個所が少なく十分な調査ができなかったが, 生育期間中の受光量が43kwH/m^2(全天の17.5%)の所で2.6cm, 21kwH/m^2で1.9cmの伸長量であった.
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