研究概要 |
本研究の目的は酵素機能を模倣する人工酵素モデル即ちバイオミメティツクポルフィリン錯体を使ってリグニンを分解するための反応システムを確立し, 工業的脱リグニン技術開発に役立つような基礎的知見を集積することにある. 従って反応機構の解明を中心にその触媒反応理論の確立に重点が置かれており, リグニン分解ペルオキシダーゼとの類似点と相違点が特に興味深く研究された. その結果, ポルフィリン触媒化学史上2つの新規な反応を発見することに成功, 過酸化水素や有機過酸化物(活性酸素源)の存在下で, (1)リグニンモデル化合物のC-C単結合を切断し, (2)非フェノール性芳香核が開環することを証明した. 特に前者の反応では, リグニナーゼ酵素系と同じように分子状酸素がC-C開製生成物, フェニールグリコール基のα-位に84%の転入率で導入されていたこと, 基質(β-1)のβ-位に標識されていた重水素原子は同じフェニルグリコール中に保持されていたことは, 本反応はペルオキシダーゼ型の一電子酸化機構で進行していることを強く示唆している. 更に, 後者の3,4-ジメトキシベンゼン核がそのまま開製する反応はきわめて稀有な反応であり, 特に, 水分子と酸素分子が一原子ずつ互いに正反対に芳香核のC_3とC_4の位置にとり込まれることは特記すべき知見である. このような位置選択的一原子酸素添加は酵素反応でも見られ, 位置選択性は基質もしくはXの中間体の反応性に帰因すると結論される. 以上の実験結果は, 人工酵素系においても一電子酸化剤としてオキソ鉄ポルフィリン複合体(オキセン種)が一電子引き抜きの初発反応を引き起こすことを示している. このような一電子酸化反応は, 種々の因子, (1)pH, (2)有機溶媒(水溶液), (3)ヘム鉄配位子剤, (4)基質や触媒濃度等によって影響を受けることが判った. しかし, リグニンポリマーと木材チップ中のリグニン分解については今後詳細な研究を続ける必要がある.
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