研究概要 |
研究の前半は, 30種程の魚種の顔面葉の外部形態と一般構造を比較解剖学的に調べた. その結果顔面葉は6つの型に大別された. 第一の型はコイ科の魚でみられ, 左右の顔面葉が完全に癒合するもの. 第二の型は延髄の第4脳室に沿って左右一対の感覚柱として存在し, その前方が顔面葉に後方が迷走葉に対応するものである. この型は視覚や側線が発達したスズキ, オコゼなどでみられる. 第三四五型は第二型の変形で, それぞれ顔面葉前方に2, 4, 5つの長軸方向に伸びる小葉構造をもつものである. これらの型に属するものは, ナマズ, ゴンズイなど口唇部に触鬚をもつナマズ型の魚である. 第六の型はヒメジ科の魚でみられ, 顔面葉の背面に7〜8本ヒダをもち, その中に層構造を呈するものである. これらの結果より, 最も原始的な顔面葉は第二の型であり, それより第一のコイ型, 第三〜五型のナマズ型, 第六のヒメジ型に分化したと考えられる. 研究の後半では, ナマズ型顔面葉の段階的複雑化を明らかにするため, ナマズ, ゴンズイ, アリウス, フェリスの3種の魚を選び, 種々の顔面神経枝の中枢への投射をHRP法を用いて調べた. その結果顔面葉前方で明瞭にみられる小葉構造は触鬚か同体部に対応することがわかった. 同体部小葉以外のものはその数と長さは触鬚の数と長さに比例する. たとえば4対のほぼ同じ長さの触鬚をもつゴンズイでは, 顔面葉に同じ大きさの4つの小葉構造を顔面葉後方から前方に発達させている. 一方, 長, 中, 短の3対の触鬚をもつアリウス フェリスでは, それぞれに対応して長, 中, 短3つの小葉構造を顔面葉後方から前方に向けてもつ. これらの結果よりナマズ型魚類の段階的複雑化を予想することができ, 今後この点をさらに明らかにするため固体発生の中で味蕾の出現と分布域の広がりを追求すると同時に, それと平行しての顔面葉形成過程を調べる予定である.
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