研究概要 |
琉球列島に生息するアユの分布, 生息状況, 遺伝的特徴等について, ほぼ計画どおり研究を実施し, いくつかの重要な成果を得ることができた. 1986年7〜9月に琉球列島の屋久島, 中之島, 奄美大島, 沖縄島の主要河川を踏査した結果, アユの生息が確認できたのは, 屋久島と奄美大島のみであった. 沖縄島でのアユの絶滅はほぼ確実となった. また, トカラ諸島にはアユは分布しないことも明らかになった. 採集した標本の生化学的ならびに形態学的分布を行なったところ, 奄美大島産アユに他とは違う遺伝子が固定している遺伝子座が新たに見付かり, 琉球列島型アユのゲノムの20%強が, 日本列島型アユのそれと異なっていることが判明した. 琉球列島型アユは遺伝的に非常に特異であるとの結論は, より確かなものとなった. 屋久島産アユは, 遺伝的にも形態的にも, 日本列島型アユとしての特徴を示し, 奄美大島に生息する琉球列島型アユとは明瞭に異なっていた. したがって, 琉球列島型アユの分布北限は奄美大島であり, アユの両型は, トカラ海峡を境に北と南に判然と隔縮していることが明確になった. 奄美大島の主要18河川を調査した結果, 琉球列島型アユの生息するのは, この島の南部の一部の河川に限られており, 役勝川を除くとアユの密度は非常に低かった. この結果より, 奄美大島のアユ集団は, 主としてこの役勝川が支えているものと推察された. 役勝川にはダムがなく, 環境の人為的荒廃があまり進んでいないこと, さらに数年前より地元の人々による保護施策がとられはじめたことが, この川に比較的多くのアユを存続させている条件だと考えられる. 琉球列島型アユの残された唯一の生息地である奄美大島において, これを絶滅から守るためには, 各河川の環境悪化を防ぐとともに, 役勝川集団の保護を基本にすべきである.
|