研究概要 |
水産無脊椎動物は特有の味, テクスチュアなどを持つが, ナマコも水分が90%以上を占めているにもかかわらず, 煮熟や酢酸などの処理により, さらには生時でも外部刺激により強度が大きく増大する. 他方, ナマコは死後急激に軟化現象を起こし, 体壁の商品価値は著しく損なわれる. 本研究は, この体壁の強度変化の原因物質を究明し, その独特の強度を維持するための貯蔵条件の設定の資とすることを目的とした. 1.マナマコstichopus.japonicas体壁はコラーゲンを主要タンパク質とするが, 貯蔵実験から生ナマコの軟化現象がコラーゲンの酵素的分解によらないことが明らかになった. 2.脱塩処理したマナマコ体壁の強度は0.1MのNa^+やK^+の添加により, 当初の値(0.6-1.4kg)の33-55%に急減し, さらにNa^+では0.3M, K^+では0.4Mで強度が見かけ上消失した. 一方, Ca2+, Mg2+といった2価の陽イオンも0.1Mまでは軟化作用を示したが, それ以上の濃度でも生筋の50%以上の強度がみられた. 3.陽イオンの影響から体壁に酸性ムコ多糖(AGAG)の存在が示唆されたので, その単離精製を試みた. 精製標品は電機泳動および超遠心的に単一で, 電機泳動挙動や化学組成などから, コンドロイチン46-硫酸に極めてよく類ししたAGAGであることが明らかにされた. 4.生体内濃度の0.3mg/mlの精製AGAGの比粘度(hsp)を測定したところ, 当初の0.70が, 各0.1MのNa^+, K^+, Ca^<2+>およびMg^<2+>存在下でそれぞれ0.47, 0.51, 0.49および0.57へと減少した. 5.ルテニウムレッド染色による電顕像から, コラーゲン線維以外空間にAGAGが存在し, 0.4MNa^+処理によりこれが凝集することが明らかとなった. 6.以上の諸結果から, マナマコ体壁の強度変化が体構成成分のAGAGの性状変化に由来することが明らかとなった.
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