研究概要 |
魚の肉質, 特にゲル形成特性の魚種内変動に関係する生物学的及び環境的要因を明らかにする目的で, 魚の成熟と産卵, 飢餓と飽食, 餌料の種類, 及び水温とその変動が筋肉の一般組成, タンパク組成, 潜在ゲル形成能, 及び火戻り性に及ぼす影響を調べた. 瀬戸内海のトカゲエソ(Saurida elongata)の場合, 6-7月の産卵期に筋原繊維タンパク質が減少し, 潜在ゲル形成能も低下することを見出した. 産卵後は筋原繊維タンパク質の急速な回復にもかかわらず, 潜在ゲル形成能は10月になっても回復しなかったが, これは産卵期に増大する50゜Cでの火戻り性が産卵後も衰えないことによると考えられた. ティラピア(Sarotherodon nioticus)を長期間飢餓状態におくと, 筋原繊維タンパク質が減耗し, それに伴って潜在ゲル形成能が低下し, 火戻り性も増大するが, 再給餌によって回復することが判明した. ティラピアの場合, フィッシュミール配合餌料飼育魚とオキアミミール配合餌料飼育魚の間には肉質に有意な差違が認められなかったが, 植物性プランクトン(Scenedesmus sp,Microcystis sp.)飼育魚とフィッシュミール配合餌料飼育魚では, 前者の方が後者よりも低い火戻り性を示した. また, ティラピアの場合, 18゜C飼育魚と28゜C飼育魚の間にも, 20゜Cから30゜Cへ水温を上昇させながら飼育した魚と30゜Cから20゜Cへ降下させながら飼育した魚の間にも, ゲル形成特性の差違は認められなかった. 以上の結果から, 魚の肉質, 特にゲル形成特性の魚種内変動に対して, 筋原繊維タンパク質を消耗させる産卵と飢餓は重要な要因であり, 餌料の種類も副次的要因になり得るが, 水温が関与している可能性は小さいことが明らかになった.
|