研究概要 |
クルマエビ幼生は, ふ化後ノープリウス, ゾエア, ミシスと変態を重ね, 約1週間後にポストラーバになる. 本研究は, 有機燐殺虫剤に対する本幼生の耐性が, 成長段階の進行に伴って急激に低下する原因を究明した. 1.各成長段階の幼生を供試し, フェニトロチオン(FS)とそのオキソ体(FO)の急性毒性を調べ, FSの毒性はノープリウスからポストラーバに至るまでに2,500倍も増加するが, 他方FOの毒性は殆ど変化しないことを見出した. さらに, 数種有機燐剤の毒性を調べた結果, クルマエビ幼生の成長に伴う毒性の増加はチオノ型有機燐剤に共通的な現象であり, 他方オキソ型剤の毒性は幼生の全期間を通じてほぼ一定であることを明らかにした. 2.次いで, 各幼生をFS-海水に曝露し, その取り込みと代謝物質の経時的変化を追跡した. その結果, 初期幼生のFS代謝活性は極めて微弱で, 体内に取り込まれたFSの大部分は原体のままで存在しているが, 成長段階の進行とともに代謝活性が高まり, 強毒性のFOも次第に生成されてくることを実証した. また, ポストラーバによる水中FOの取り込み速度はFSの1/40に過ぎず, その結果同幼生に対するその毒性がFSの1/10に低下した, と推定した. 3.次に, 各幼生のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対する各種有機燐剤の阻害性を調べた. その結果, 各成長段階の幼生間で感受性に差は認められないが, チオノ型剤に比べてオキソ型剤に対して高い感受性を示し, 特にクルマエビ幼生のAChEが他の供試エビ類や魚類のAChEに比べて, FOに対して格段に高い感受性を示すことが明らかになった. 以上の結果から, クルマエビ幼生の成長に伴う有機燐剤耐性の急激な低下はチオノ型剤に対する特異的な現象であり, 成長段階の進行に伴う酸化的脱硫能の昂進および生成オキソ体に対する本幼生AChEの高感受性によるものであることが明らかになった.
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