研究概要 |
海産腹足類とくに後鰓類には生体防御に関与する様々な低分子化合物が知られているが, その多くは餌に由来する. 我々はアメフラシの卵には抗菌性と抗癌性をもつ分子量25万の糖タンパク, Aplysianin-Eが存在することを認めた. アルブミン腺にも類似の活性が認められたので, 疎水クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーで分離したところ, 分子量32万, 単一のサブユニットよりなる糖タンパク, Aplysianin-Aを分離できた. 本成分は卵のものとは分子量やサブユニット構成成分が異なるが, アミノ酸組成や生物活性はよく類似し, 一部共通のアミノ酸配列をもつことが明らかとなった. 次に, 産出卵の抗菌活性の経時変化を追跡したところ, 活性は産卵後からトロコフオア幼生期には認められるが, ベリジャー幼生期には消失することがわかった. SDS-ポリアクリルアミドによる卵のタンパク成分の変化からもこの現象を確認することができた. これらの結果はアルブミン腺で産生された抗菌タンパクが受精卵にコーティングされることおよび抗菌成分はアメフラシの卵割初期の生体防御に密接に関与することを示唆している. 一方, 産出卵に認められるレクチンは卵割の全過程で認められたが, 構成々分の著しい変動があった. 近縁のアマクサアメフラシの相同器官の類似成分についても精製を進めて, 卵および錯綜部から分子量37.5万, 7.8万のサブユニットよりなる互いによく似た糖タンパクを分離した. これらはAplysianinと同様, 枯草菌に対して強い抗菌性を示すほか, マウス腫瘍細胞に対しても強力な活性を示した. アメフラシの抗菌タンパクとは物理化学的性状が異っているが, オクタロニー法ではアークを形成し, 両種の抗菌タンパクのアミノ酸配列にも共通する部分があることがわかり, 類似の成分がアメフラシ科に広く分布することが推測できる. なお, これらの抗菌タンパクは真菌類に対しては全く増殖抑制作用を示さなかった.
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