研究概要 |
脳下垂体ホルモンは、動物の行動,性殖等広範な機能調節物質として知られている。その一つであるプロオピオメラノコルチン(POMC)は種々の哺乳動物においてその遺伝子が単離され構造解析が行われている。我々はさきに魚類の一つサケにおいて、脳下垂体よりPOMCのmRNAに対するCDNAクローン-種を単離し構造を解明した。本年はさらに本CDNAクローン#17をプローブとして数種のCDNAクローンを分離しその構造解析を行い次の結果を得た。1)#17CDNAはNPP【II】,α-MSH【II】,β-MSH【II】,β-EP(エンドルフィン)【I】を含むPOMC【I】のmRNAであったが、新たに分離されたCDNAクローン#106,#199はNPP【I】,α-MSH【I】,β-MSH【I】,β-EP【II】を含むPOMC【II】のmRNAに対応するものであった。ペプチド解析の結果その存在が予想されていたPOMC【II】が、事実存在する事をmRNAレベルで明らかにしたことになる。これ等両mRNAはCoding部分で塩基配列に差があるのみならず、3´noncoding部分でPOMC【I】が約900塩基,POMC【II】で160と短く、その構造の類似性から哺乳類の祖先遺伝子であることを示唆した。 2)哺乳類で発見されていたγ-MSHに関しては、サケには存在しない事が見出された。すなわちPOMCのN端のNPPペプチドのγ-MSHに相当するヌクレオチド配列がサケのPOMC【I】,【II】のいずれにおいても欠落していた。これは動物の進化を考える時、貴重な1例となるだろう。すなわち、動物界においてMSH様始祖遺伝子がサケ以前において重複され、魚類から哺乳類にいたる進化のどこかの過程で更にもう一度遺伝子重複が起り、哺乳類におけるγ-MSHとなったと考えられる。
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