研究概要 |
1986年4月、瀬戸内海東部海域にProtogonyaulax tamarensisが最大3740細胞/mlの濃度で赤潮となり、アサリ,マガキ,ムラサキイガイなどが毒化した。プランクトンの麻ひ性貝毒(PSP)組成を調べると、低毒性のφX1,2とGTX5を著量に含有していることが分った。これまで北日本に発生して来たP.tamarensisは、強毒性のGTX1が主成分であることから、今回の瀬戸内海での事例は、PSP組成の上で大きく異なる結果を与えた。この外、赤潮となるまで増殖しながら、二枚貝毒化期間は約1ケ月間と短いことなど、従来の知見と相違する事も多かった。 この様な発生様式とPSP成分組成の両面にわたる変化には、必らず遺伝子レベルでの変異が関係していると考えられることから、プランクトンのDNAを分析した。すなわち、大量培養した藻体16gに、リゾチーム,RNase,プロナーゼを作用させ、低分子DNAを抽出した。そして、塩化セシウムによる密度匂配法で20℃,41,000rpm,35時間超遠心分離したところ、エチジウムブロミドによる単一バンドを分取することができた。これをアガロースゲル電気泳動に供すると、分子量1・3×【10^6】dalと測定された。NENSORBによる吸着テストなどから低分子DNAであることが確認された。 分離されたDNAが、プラスミドとして自己増殖機能を保持しているかどうか、また、強毒性PSP成分をスルホン化する機能を有するかどうか等の諸問題を明らかにするため、P.catenella無毒株、底棲渦鞭毛藻Ostreopsis sp,ある種の藍藻細胞に、マイクロマニピュレーターを使用して注入し、形質転換能をもったDNAであることの確認実験を進めている。 本研究課題は、1986年11月に許可された研究であるので、DNAの電子顕微鏡による形態観察、制眼酵素による切断、塩基配列分析などは、現在進行中であり、今すこし時間を要す。
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