研究概要 |
本研究は, 東南アジアと日本における稲作技術変化と農家の経営対応の実態を, 土地制度との関連で明らかにすることを目指した. 東南アジアでは, 「緑の革命」技術によって急激な変化が生じている一方, 日本では機械化技術の定着で規模拡大が志向されているが農地流動化は停滞気味である. 東南アジアの小作形態は定額小作と分益小作に大別でき, 分益小作は技術革新と合理的資源配分にとって障害となると考えられてきた. しかし, インドネシア, マレーシアおよびタイでの調査結果によれば, 分益小作を含む小作関係は新技術の導入・定着の障害とはならないといえる. 技術革新の成果である生産力水準には農家間格差が存在するが, それは主として個別農民の人的側面(経営能力)および稲作に対する主体的対応の相違によるものであり, 土地保有形態や小作形態によるものではないことが明らかなった. すなわち, 小作農といえども稲作に積極的で技術革新と経営改善を図る農家が存在する一方, 自作農でも伝統的技術に固執したり, 兼業化に向かう農家が存在するのである. 日本では利用増進法下で設定した利用権の借手と貸手について, 経営構造の実態と将来の意向に関する実態調査を実施した. 貸手の多くは非農家か後継者のいない高齢者世帯である. 借手は専業的に稲作に従事している農家が多く, 複数の地主から小面積ずつ借入し規模拡大を進めている. 借手の将来の経営志向は, 稲作拡大と複合化に大別でき, 前者は今日の大規模層に多いが, 後者は小・中規模層に多い. 一層の規模拡大には, 農地分散と転作面積の増大が障害になると思われる. 稲作農家の経営対応は, 技術体系のみならず稲作の機会費用および農村社会, 諸制度によって規定されており, 今後は, 経営展開の方向と外生的経営条件との関連性を解明する必要がある.
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