研究概要 |
高温環境下で発生する雌家畜不妊の主要因である無発情の発生機序を明らかにする目的で以下の実験を行った. 正常に性周期を回帰しているシバヤギを供試動物に用い, 25℃(対照), 35℃(軽負荷)および40℃(重負荷)の環境温度を負荷して, 発情発現と血中ホルモン濃度を比較した. その結果, 熱負荷強度の増加にしたがい卵巣からのエストロジェン分泌が減少し, 重負荷では約半数で無発情が生じた. この時, 性腺刺激ホルモン(LHとFSH)の分泌には熱負荷による減少はみられなかったが, 熱負荷動物ではLHサージの成立が遅れたことから, 熱ストレスは卵巣レベルでエストロジェン分泌を抑制し発情発現を消失させる一方, さらにエストロジェンに対する中枢の感受性をも低下させることが示唆された. そこで, 卵巣を除去した動物に外生的に性周期のステロイドホルモン分泌を再現した系を用いて, 生殖中枢の反応性を比較した. その結果, エストロジェンに対する発情中枢の反応は熱負荷による影響を受けなかったが, LHサージ中枢の感受性が熱負荷によって有意に低下することが示され, このことが熱負荷動物でLHサージが遅延する原因であると考えられた. 次いで, 熱負荷に由来する高プロラクチン血症が熱負荷動物のエストロジェン分泌低下に関与するのかどうかを検討する目的で, ドーパミン作動薬のブロモクリプチンを投与してプロラクチン分泌を抑制した場合にエストロジェン分泌および中枢の反応性が回復するか否かを調べた. その結果, LHサージ中枢の反応性はブロモクリプチン処理によってほぼ正常なレベルに復帰したが, 高プロラクチン血症の解消による卵巣エストロジェン分泌の回復は認められなかった. 以上, 本研究の成績から, 高温環境による無発情は, 視床下部-下垂体系の不活化に主原因があるのではなく, むしろ卵巣レベルで発生するエストロジェン分泌能の低下に起因すると考えられた.
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