研究概要 |
オルニチン・トランスカルバミラーゼ(OTC)はバクテリアから高等動物に至るまで広く生物界に存在するアルギニン合成に係わる酵素である. 尿素排泄型の哺乳動物や両棲類では肝臓のミトコンドリアに局在し, 尿素サイクルの一酵素として機能している. 他方, 尿酸が窒素の最終排泄物である鳥類では, 本来この酵素は必要ではない. しかしながら, 申請者はニワトリ腎臓のOTC活性が個体や品種間で極めて変動が大きく, その変動には様々な遺伝的背景がからんでいるものと推定した. ニワトリ腎臓OTCも哺乳動物の酵素と同じくミトコンドリアに局在し, 3量体で, 分子量も同じであったただ, 孵化前後の活性の動向や酵素誘導の機構などは哺乳動物のそれと全く異なっていた. 多様な変異の存在する理由としては, 本酵素がニワトリでは生理的に重要な意味を持たず. 全く中立な遺伝的変異が長期にわたって蓄積されて来たことによると考えられた. これに加えて, ニワトリではOTC発現の組織特異性がくずれていた. ニワトリではOTC活性の認められない臓器でも酵素蛋白質が前駆体として合成されていた. しかしながら, それらの臓器ではプロセシングによって成熟型には転換されないことが明らかになった. ニワトリOTCの遺伝的多様性の原因としては構造遺伝子, 制御遺伝子の両変異が含まれていた. 窒素排泄系の進化を考えるとき, 鳥類はプリン合成系を利用して尿酸合成に当たる一方で, OTC前駆体のプロセミング機構の阻害などで, 尿素サイクルの機能を失わせはしたが, OTC遺伝子そのものは3億年もの間, 大幅な突然変異によって失われることなく大切に保持して来た事が推定されるに至った. 今後, ニワトリOTCの遺伝子のクローニングを行って, 構造遺伝子, 制御遺伝子の構造を明らかにし, 生物が窒素排泄系の進化に対して, どのような遺伝的対応をしてきたかを解き明かしたい.
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