研究概要 |
1.フタトゲチマダニの発育に及ぼす温度の影響を調べた。その結果、雌成ダニの前産卵期間、産卵期間及び飽血幼ダニと飽血若ダニの脱皮期間は温度の低下に伴って延長され、12℃では産卵、孵化及び脱皮のいずれも起こらぬことが知られた。また、産卵可能な最低温度,発育零点,及び飽血幼ダニと飽血若ダニの脱皮可能な最低温度は、それぞれ11.1,12.2.10.2及び11.8℃であった。温度は産卵能力と孵化率にも影響を与え、体重1mg当たりの産卵数は15℃で著減し、孵化率は温度の低下に伴って減少した。以上から、本種が発育できる最低温度は約12℃と推察された。 2.フタトゲチマダニの発育に及ぼす湿度の影響を4段階の湿度条件(59.5%〜100%RH)を設定して調べた。その結果、未吸血の幼ダニ、若ダニ及び成ダニの生存日数は高湿度ほど、また同一湿度条件下では発育段階のより進んだものほど長いことが知られた。卵の孵化率及び飽血幼ダニの脱皮率は100%RH以外では著しく低かった。しかし、飽血若ダニの脱皮率及び脱皮期間には、湿度による差は殆ど見られなかった。産卵は全ての湿度条件下で認められたが、低湿度条件下では産卵しない個体が現れた。体重1mg当たりの産卵数も低湿度条件下では100%RHに比して著減した。以上から、本種の長期生存と順調な発育のためには、84.5%RH以上の高湿度条件が必要なことを知り得た。 3.フタトゲチマダニ雌成ダニにおける吸血に伴う唾液腺の微細構造的変化について調べた。その結果、この唾液腺は非顆粒性の【I】型腺胞と分泌顆粒を有する【II】,【III】型腺胞から成り、【I】型腺胞は未吸血時における水分吸収に関与し、【II】型腺胞のa細胞及及び【III】型腺胞のc,d細胞はセメント物質、【II】型腺胞のb細胞は加水分解酵素の分泌に関与することが推察された。また、【II】,【III】型腺胞の非顆粒性細胞は、吸血した血液から濾過された多量の余剰水分と塩分の排除に関与することが推察された。
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