研究概要 |
本研究班は昭和61・62年度の2年間に標記に掲げた課題に関する論文12編並びに学会及びシンポジウムにおける8編の発表を行った. 1.形態に関する総括:ニホンカモシカの生態と関連して特に指間洞腺及び眼窩下洞腺に注目した. 前者は発生学的に初期胎仔にその原基がみられ, カモシカの古い形質のものと推察されたが, 嚢壁の汗腺及び脂腺の発達は悪く, 群生性の種で指摘されているような放香腺としての役割は乏しいと思われた. 一方, 後者はガスクロマトグラフィーによる分泌物の分析結果から, ステロールエステル分画に雌特有のピークが検出され, 本腺がテリトリーマーキングのほかに性誘引物質の分泌など多様な機能を有する放香腺と思われた. 2.疾病に関する総括:寄生虫性疾患としてはprotostrongylus shiozauaiによる肺病変, Onchocercaによる皮下病変が高頻度に認められた. 伝染性疾患としてはparapoxvirus infectionの大流行が注目された. 3.生殖に関する総括:卵巣及び胎仔の観察から雌ニホンカモシカの繁殖に関する基礎的資料が得られた. 雌は2.5才で性成熟に達し, 交尾期は9月から12月, 出産期は4月から7月で, 通常1産1子である. 卵巣内のエラストイド小体を数えることにより過去の出産回数を推定することが可能となり, 平均妊娠率は70.8%と算定された. 雄の春機発動は生後7ケ月以内であり, 2.5〜3才で性成熟に達する. 又精巣の大きさ・精子形成機能, 精嚢腺中果糖含量, 血中および精巣組織中アンドロジェン含量を検索した結果, いずれの項目も12月において最も高く, 1月から3月にかけて減少し, 雄の性機能には季節変動の推移があることが明らかとなった.
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