研究概要 |
ブドウ球菌(14菌種2亜種計17株)の培養細胞及び生体由来の各種細胞への付着性について検討し, 以下の成果を得た. 1. ProteinA保有の菌株(S.aureus CowanIとShyicus subsp. hyicusNCTC10350)は未保有株に比べて, Vero・MDCK細胞, 家兎の鼻腔・気管・膀胱粘膜上皮細胞によく付着した. 2. 豚由来S.hyicusのproteinA保有株と未保有株のVero細胞への付着能を比較した. 前者は後者に比べて該細胞によく付着し, またトリプシン処理によりproteinA保有株の付着能は著しく低下した. 1と2の成績から, ブドウ球菌の細胞への付着にはproteinAが1つの役割を果たしているものと考えられた. 3. マウス表皮細胞にS.sciuriが極めてよく付着し, 本菌がげっ歯類の皮膚に広く常在していることを考え合わせると, 極めて興味深い知見で, この系はブドウ球菌の皮膚定着現象を解明するのに寄与するものと思われた. 4.Vero・MDCK細胞に対して強い付着能を有するS.hyicus(鶏由来)が存在することを見出し, その付着にはproteinA以外の因子が関与している可能性が考えられた. 5. コ陰性ブドウ球菌(CNS)による尿路感染の発症機構を解明する目的で, CNSの家兎膀胱粘膜上皮細胞への付着について検討した. その結果, 人の尿路感染の起炎菌種の1つであるS.epidermidisが膀胱上皮細胞に高い付着性を示す興味ある事実を発見し, 家兎の膀胱が人の尿路感染発症機序解析のための感染モデルとして応用できる可能性を示した. 本菌の細胞付着はpH依存性で, pH7を境にしてアルカリ側では付着能は著明に促進され, 酸性側では著しく悪かった. また本菌は50〜90°C1時間の加熱及びトリプシン処理により, 付着能は著しく低下した. このことより, 本菌の膀胱粘膜上皮細胞への付着には菌体表面に存在する易熱性のタンパク質が関与している可能性が示唆された. 6. 膀胱上皮細胞への菌付着能とマウス尿路系組織に対する病原性との間には関連性は求められなかった.
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