研究概要 |
山羊のソテツ中毒症の病理学的報告は未だ無く, サイカシン長期投与山羊に牛のソテツ中毒に質的に一致する脊髄病変が観察されたので, 山羊のソテツ中毒とサイカシン中毒を実験的につくって病理学的比較研究を行い, ソテツ中毒とサイカシン中毒を実験的につくって病理学的比較研究を行い, ソテツ中毒におけるサイカシンの役割を明らかにするのが本研究の目的である. 山羊7頭にソテツ葉0.1〜3g/kgを20〜231日間投与して急性〜慢性の中毒を観察し, サイカシン0.75〜3mg/kgを16〜114日間投与した山羊4頭と毎週1回20mg/kg連続6回投与した山羊1頭の合計5頭に急性〜慢性の中毒を観察した. ソテツ中毒の症状と主要病変はサイカシン中毒のそれに一致し, 元気食欲消失, 体重低下, 血清GOT, LDH, γ-GTP, 血中NH_3の上昇等の肝機能障害を呈し, 急性例は肝の脂肪化, 慢性例は肝小葉中心域の線維化が顕著であった. 中枢神経系では様々の程度の肝性脳症様空脆化が, 間脳, 小脳, 延髄, 脊髄などに認められ, 軸索の膨化は脊髄の灰白質に散見され, 白質の変性は乏しかった. ソテツ慢性中毒の2例は肝障害が起る以前に貧血を認めたが, 肝・腎のヘモシデリン沈着は軽度であった. 電子顕微鏡的に肝における慢性変化を比較すると, ソテツ中毒では著しいミトコンドリアの増多と腫大がみられ, ディッセ腔の拡大が目立ったのに対し, サイカシン中毒では肝細胞の粗面小脆体の拡張と空脆化, ミトコンドリアの増多, 小脆体の増生に高電子密度の顆粒が附着し, 中心域では細胞壊死性の変化が多かった. これらは, 光のサイカシン投与例の肝病変よりも強い変化であった. 以上の結果より山羊のソテツ中毒は羊型に近く, サイカシンの毒性による肝障害が強く表われ, 肝性脳症様病変を起こすことが明らかになった. 山羊のサイカシン中毒も, 先の実験よりも低用量で肝病変が強く表われたため, 脊髄白質障害を再現できなかったと思われるので, 更に例数を増して検討を進めるべきであろう.
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