研究概要 |
1.新しいディープエッチレプリカ技法として, 試料反転エッチング法を開発した. これは新鮮標本中に溶解する塩類や高分子物質などが, 水の昇華に伴ない析出沈着するのを防止するのに有効であり, ギャップ結合膜のレプリカ観察や同定が極めて容易となった. 2.心筋ギャップ結合斑の細胞質側表面の観察では, 細胞膜裏打ちに覆われた非結合部膜に比べ線維の付着挿入が疎であり, 低い敷石状粒子構造の配列を認めた. これは肝細胞の平坦無構造なギャップ結合斑とは相違するが, 親水性通路の開口部に相当する小孔は, いずれにも確認できなかった. 3.妊娠末期に急激に形成される子宮平滑筋ギャップ結合の増殖機構をみるため, 片側子宮のみ妊娠着床したラットを用いて部位による分布や大きさの変動を定量的に分析した. その結果, ギャップ結合は非常に動的な構造であり, その形成には, 分娩前の増加を引き起こすホルモン等の全身的な要因でけでなく, 分娩中に平滑筋の収縮に関係した増加を生じる局所的要因によっても支配されていることが判明した. 4.心筋と肝細胞のギャップ結合斑細胞質表面の相違に基づいて, 種々の組織細胞に分布するギャップ結合の分類を試みた. ディープエッチレプリカ観察により, 血管内皮・毛様体上皮・子宮平滑筋・肝腹膜中皮では心筋と同じく, PF面粒子に対応した粒子配列構造が存在した. 他方, 胃粘膜上皮・腸上皮・腎尿細管・子宮内膜上皮では肝細胞と同様の平坦なギャップ結合膜面を呈した. これは細胞質内領域が相違する, 少くとも2種以上の異なったギャップ結合蛋白質が存在し, その分布は機能的相違を反映するよりもむしろ, 非上皮性組織と上皮由来組織との組織特異性による可能性を示唆する. 分布がサイトケラチンの有無と類似し, 両者に共通する組織分化過程の存在を推測させ, この観点からも興味深い.
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