研究概要 |
霊長類上肢の動脈系の比較解剖学的研究・ロリス科(原猿類),マーモセット科(真猿類):ロリス科Slow loris等:太い(1本)上腕動脈と分岐した内径約0.15mmの細動脈(40〜50本)が束状をなした特異な形態をした動脈管束が認められる。上腕動脈は上腕の遠位1/3の高さで管束から離れ、尺骨動脈となり、前骨間動脈を分枝し、手の動脈となる。動脈管束は正中神経の浅部を下行し、尺側側副動脈,前腕の屈筋と伸筋の筋枝にあたる細動脈の管束,手背に達する筋皮神経の皮枝と伴走する細動脈と正中神経と件走するやや太い正中動脈を分枝する。正中動脈は前腕の遠位で背側枝と掌側枝に分かれ、掌側枝は浅掌動脈弓の形成に関与する。橈骨動脈は認められない。ロリス科,Grand garago等:動脈造影写真の立体的解析により、動脈の走行はSlow lorisと基本的に変らず、管束の細動脈が太くなり且つ数が減少した動脈管束が認められる。動脈管束の走行は、ヒトの浅上腕動脈のそれと一致する。 マーモセット科,Tamarin等:良く発達した浅上腕動脈を有し、その走行は原猿類の動脈管束と基本的に類以している。浅上腕動脈は上腕の遠位1/3の高さで良く発達したtransverse cubital arteryを分枝する。この動脈は原猿類の前腕の伸筋の筋枝に相当し、橈骨神経浅枝と伴走する細枝(橈骨動脈)となり前腕の遠位で終る。浅上腕動脈は筋皮神経の皮枝と伴走し、背側枝と掌側枝に分かれ、掌側枝は浅掌動脈弓の形成に関与する。正中動脈は細く、尺骨動脈から分枝し、原猿類で動脈管束から分かれた尺側側副動脈,前腕の屈筋の筋枝も直接上腕動脈,尺骨動脈から分枝している。 原猿類にみられる動脈管束は比較解剖学的に霊長類の上肢動脈系の進化過程の原型と考えられる形態を有していた。
|