研究概要 |
狭心症の主因である冠動脈攣縮が種々の薬物で実験的に誘発されることは報告されてきたが, 攣縮期の形態学的変化は殆ど観察されていない. また, 他種血管でヒスタミン含有顆粒であると考えられてきた内皮特殊顆粒(Weibel-Palade body)の冠血管における意義も解明されていない. 我々はブタ冠動脈で行った実験から以下の結果を得た. 1)ブタ冠動脈前室間枝(1mm〜2mm長)をKrebs Ringer内にワイヤーで懸垂し, 動ひずみ測定機に接続したのち,種々の血管収縮物質を濃度を変えて添加した結果, アセチルコリン(10^<-3>M)とヒスタミン(10^<-3>M)で強い収縮曲線を得た. 2)ヒスタミン誘発冠動脈攣縮期の血管壁は中膜平滑筋細胞の収縮による内皮の管腔内突出, 内弾性板の屈曲, 内皮と内弾性板との離開, さらに内皮細胞間隙の空胞状拡大などがみられ, 内皮細胞内にも多数の空胞が出現した. 3)HRP標識実験で, 攣縮期には標識が内皮細胞間隙, 内皮下層, 内弾性板などに, 対照群と比べて有意の差を以って沈着しており, 動脈攣縮で著しい血管内皮透過性を亢進していることが明らかとなった. 4)内皮特殊顆粒の動脈攣縮に及ぼす影響を検索するため, ヒスタミン遊離剤であるcompound 48/80(500μg〜1mg/ml)を添加した結果, 微弱ではあるが, 収縮曲線が得られた. この時期の内皮細胞を電顕で観察した結果, 内皮特殊顆粒の著明な脱芯を生じていたが, 2)で述べたような内皮の形態学的変化は殆ど認められなかった. 5)以上の結果はヒスタミン誘発によるブタ冠動脈攣縮期には血管内膜の著明な損傷が生じ, それが攣縮を増幅することが示唆された. 内皮特殊顆粒はブタ冠動脈においてもヒスタミン含有顆粒であり, その放出は血管中膜の収縮を誘発させることが明らかとなった.
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