研究概要 |
エストロゲンの向神経作用とそれに対するシナプスの可塑的な反応機序を解明する一歩として, 新生ラットの視束前野(POA)組織を成体去勢雌ラットの第3脳室内に移植し, 宿主を介して投与されたエストロゲンがPOA移植組織片の成長と移植片内のシナプス形成を促進するかどうかをしらべた. 脳移植の当日に宿主の皮下にエストラジオールを含むサイラスティックチューブを植え込み, 4週間後, 宿主を殺して脳内の移植片の体積と移植片のシナプス数を計測し, 対照群と比較した. その結果, エストロゲン投与群では, POA移植組織内のニューロンの軸索や樹状突起の伸展の促進が見られ, 移植組織の体積と移植片の10,000μm^2当りのシナプス数も対照群と比べて有意に増加した. 一方, 頭頂葉移植群ではエストロゲンによる促進効果が見られなかった. これらの結果から, エストロゲンがPOA組織のニューロンの成長や神経回路形成に促進的に働く可能性が示唆され, エストロゲンがこれらのニューロンに対して向神経作用を有することが示された. 弓状核のドパミンニューロンを含む胎仔の内側底部視床下部(MBH)組織を成体ラットの第3脳室内に移植し, ガングリオシドを投与すると, ドパミンニューロンのチロシン水酸化酵素(TH)の免疫組織化学の染色性の増強が見られるが, エストロゲンとガングリオシドを同時に投与しても単独投与群と差は認められなかった. 一方, MBHを同様に移植された個体にオスモティックミニポンプによって脳室内に連続的に神経成長因子(NGF)を注入すると, 移植片のTH活性の増強が顕著で, 殊に, TH陽性線維の著しい増加が認められた. この実験条件でNGFがMBHドーパミンニューロンの成長を促進する可能性が示唆された. エストロゲンの向神経作用とNGFの働きとの関連が今後の解明されるべき課題である.
|