研究概要 |
乳頭筋の実験において, 筋小胞体に発生する振動性Ca放出の性質を調べた結果, この現象は遅延後脱分極や後収縮に関与するのみならず, 細胞のCaホメオスタシスの一因子となっていることが示唆された. すなわちMgイオンは小胞体の振動性Ca放出を抑制するが, 同時に単収縮力を増大させることが見出された. これはMgが振動性Ca放出を抑えた結果小胞体のCa維持量が増加したことによると考えられる. 放出されたCaは形質膜の機構により細胞外に排出されるのであろう. これに対しカラェインは小胞体のCaを放出させ同時にCa吸収を抑制するので小胞体Caを減少させるという所見も得られた. 以上の実験は後電位や後収縮が発現する条件下で行ったものであるが, 正常な心筋においても小胞体の振動性Ca放出は微視的レベルで起こっていると考えられ, それが小胞体の従って細胞のCaホメオスタシスに関与している可能性がある. そこで筋小胞体由来のCaが形質膜にどのような電気現象を発生させるかを精密に検索するため, 単一心筋細胞を用いて膜電位固定下にカフェインを作用させた. その結果, カフェインは特異なパルス状内向き電流(20〜30pA)を発生させることが見出された. この電流はNa依存性であるがNaのLi置換によっては消失しない. 電流発生の様相からして, これは形質膜直下の小胞体のCa放出活動に由来している可能性が高く, 形質膜小胞体機能連関という観点から興味深いものである. 現在その本態についてなお研究中である. つぎに, 単離細胞のパッチクランプにおいて, 細胞内Caにより活性化される陽イオンチャネルを同定することができた. このチャネルはいわゆる一過性内向き電流に寄与するものと考えられる. このように, Caによって活性化される膜電流を2種類観察できたが, これらと膜のCa排出機構さらには細胞のCaホメオスタシスとの関連を今後さらに研究してゆくべきものと考える.
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