研究概要 |
これまで細胞における分泌現象の解析は主としてエステル, アミン, ペプチド性物質について行なわれてきており, 脂溶性物質, 特にステロイド系ホルモンの合成分泌調節機構の研究は遅れていた. 本研究では, マウス精巣間質に存在するテストステロン分泌細胞をモデルにし, 近年開発されたパッチ電極法を用いて, この細胞の膜の性質を分泌活動への関与の観点より解析した. 間質細胞は, 周囲の組織とゆるく結合しているため, 潅流液を精巣間質に噴射することで容易に遊離され, 記録槽内に集め得た. 組織化学的に, ステロイドホルモン合成酵素を染め出して, 本細胞を同定確認した. 細胞膜には膜電位依存性のカルシウムチャネルが存在しており, 刺激に応じてチャネルが開閉しカルシウムの流入を引き起こすと思われる. この点では, 神経分泌と極めて類似のカルシウムを細胞内セカンドメッセンジャーとする分泌制御様式の存在が示唆される. 間質細胞の多くは数個が集まって一塊をなしているが, これらの細胞の間では電流や蛍光色素がよく透過拡散する事が示された. この点では, 互いに絶縁され電気的にも物質的にも直接結合のない神経細胞とは好対照をなす. この間質細胞間の結合は, ホルモンの分泌合成が各細胞において同期して一斉に生じるのに役立っていると思われる.
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