研究概要 |
無麻酔サルの眼前に呈示されたエサ(リンゴ片)を、サルが自発的,能動的にとり、口に入れる運動を行なうとき、運動前野ニューロンが発火する最適条件を検討した。各ニューロンについて、皮膚,関節などの体性感覚刺激や、エサその他の具体的な物体の呈示による視覚刺激への応答の有無をしらべたあと、ビーカー,皿,ロート,木の厚板にあけた直径2-3cmの小穴、棒の先などから、サルがエサをとる時のニューロン活動の強さを調べた。運動前野のうち弓状溝後壁より前方には視覚刺激に応じるニューロンがあり、この後方かつ外側には顔面、口腔内に受容野をもつニューロンがあり、後方かつ内側には、腕,肩,体幹など主体として近位上肢帯に受容野のあるニューロンが存在した。中心部には手指の体性刺激に応答するニューロンの存在を期待したが、その数はすくなかった。視覚刺激と、顔面や上肢の体性刺激の両方に反応するニューロンも存在した。能動的な運動に関係して発火するニューロンには、次のものがあった。1)エサまたは容器の存在またはその動きに気付くこと、これを注視すること、あるいはこれに手をのばすことなどが発火のきっかけとなるもの。対象あるいはサルの手が、空間のある領域内にあるときのみ有効であったり、あるいは対象に選択性がある場合が多い。2)容器内でエサをさぐるときに発火するもの。3)エサを容器内でにぎったり、棒の先からつまんだりすることに関係するもの。容器の種類、あるいはエサの空間内位置により発火の強さが異なることが多い。4)手にとったエサを口に入れたときに発火するもの。5)上記の動作あるいは条件の2つ以上に対応するもの。6)エサの持ちかえなど両手の協同作業時のある局面で発火するものなどがあった。これらの結果は、運動前野のニューロンが、体性感覚と視覚情報をもとに手または口が行う随意運動の時空間パタンを決定することにかかわっていることを示す。
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