研究概要 |
脊椎動物網膜の水平細胞には心理物理学で知られている3つの色信号係に対応する色光応答を示す細胞が見つかっている. すなわち色光刺激に対して常に過分極性応答を示すL型と赤光で脱分極, 緑光で過分極性応答を示す2相性C型さらに黄光で脱分極, 青・赤光で過分極性応答を示す3相性C型である. これまでの知見からこのような色光応答の分化は錐体と水平細胞の固有の神経回路によって発生すると考えられている. そこで本研究ではこの神経回路を形態学的に解明するため水平細胞にhorseradish peroxidase(HRP)を細胞内注入し, シナプス結合する視細胞の種類と数を定量的に調べた. 3種類の錐体は内筋の油滴の有無・色によって形態学滴に同定した. 実験はカメ網膜の水平細胞にガラス微小電極を刺入し, 電気泳動的にHRPを細胞内注入した後, 網膜を固定してDAB法にてHRPを発色した. さらに網膜は脱水・包埋し光顕及び電顕用水平断連続切片を作製して, 今回新しく開発した『光顕と電顕連続切片像の重ね合わせ法』を用いて染色した1個の水平細胞にシナプス結合する全ての視細胞の種類と数を解析した. L型水平細胞は105個の杆体及び錐体視細胞とリボン・シナプス結合していた. 2相性C型水平細胞は32個の赤・緑・青錐体とまた3相性C型水平細胞は19個の赤・青錐体とシナプス結合していた. これまでC型水平細胞は赤錐体と直接シナプス結合しないと考えられてきたが, カメ網膜のC型水平細胞は赤錐体から直接入力を受けることが明らかになった. 本研究によってC型水平細胞の赤光に対する応答には従来の定説である負帰還シナプスを経由する信号と今回発見した赤錐体から直接伝達される信号の2つの成分があることが明らかになった.
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