研究概要 |
生体リズムの背後にあるサーカジアン振動体は胎生期に機能を開始し, 母親のリズムに同調する. 本研究では, 幼若ラットにみられる光以外の同調因子によるサーカジアン振動の同調, 即ち母仔間同調に焦点を当て, その同調因子を探ると共に, 同調機序の解明につとめた. 妊娠及び授乳期の一定期間, 毎日特定の位相に各種の人工周期を課した. 生下時に盲目にした仔の, 離乳後に発現してくる自発行動リズムの周期と位相を解析して同調の有無を判定し, 以下の結果を得た. 1.光に同調した母親のサーカジアンリズムは, 仔の数が少なく, 母親の強い影響下では同調因子として作用する. 2.給餌を一定時間に限る周期的制限給餌は, 成熟ラットの行動, 体温, 血漿コルチコステロン等に給餌前ピークを形成するが, サーカジアン振動を同調することはない. そこで妊娠中の母親及び授乳中の母仔に周期的制限給餌を課したところ, 母親の食餌性振動体に支配されたリズムが生後2週間目までの仔のサーカジアン振動体に同調因子として作用した. このため, 食餌性振動体に支配されないメラトニンは, 母仔間同調因子とは考えがたい. 3.ラットの体温リズムは食餌性振動体の支配を受け, また生後2週目までの仔は, 体温調節の多くを母親に依存している. そこで授乳期のラットを, 1日4時間又は2時間親から隔離し, 3つの異なる温度サイクル(10, 22, 30°C)を課した. その結果, 1日4時間の隔離は仔のサーカジアン振動を同調し, この間の体温低下は, より強い同調因子となった. 4.カテコールアミン作動性神経路は食餌性振動による予知性コルチコステロンピーク形成の中枢神経内経路である. そこで生下時に脳内に6ハイドロキシドパミンを注入し, 脳内カテコールアミン量を枯渇させたが, 仔のサーカジアンリズム位相に変化はなく, 母仔間同調はカテコールアミン作動性以外の神経路を介して行われることが示唆された.
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