研究概要 |
プロテインキナーゼC(Cキナーゼ)が中枢および末梢神経からの伝達物質遊離機構, 多分開口放出の機構に関与することを見出した. ラット脳の可溶性分画から精製されたCキナーゼに対するモノクローナル抗体を作製し, この抗体を用いた免疫組織科学によるCキナーゼの脳内分布は, 海馬, 扁桃体, 嗅球, 小脳皮質等に多く, 脳幹部では少なかった. 標識ホルボールエステルを用いたオートラジオグラフィーでも同様に嗅球, 海馬に多く, 延髄, 白質, 橋では少なく, ホルボールエステルの結合はCキナーゼであることが明らかになった. 中枢および末梢神経からのアセチルコリン, ノルアドレナリン, γアミノ酪酸のCa依存性遊離はCキナーゼを活性化するホルボールエステル(TPA)により増大した. 一方, Cキナーゼ活性化によるノルアドレナリン遊離の増大がホルコスコリンによるサイクリックAMP-Aキナーゼ系の活性化により抑制されたことから, Ca依存性の神経伝達物質の遊離過程がジアシルグリセロールーCキナーゼ系とサイクリックAMP-Aキナーゼ系の相互作用により調節されている可能性が見出された. Cキナーゼは従来単一の物質と考えられていたが, 近年の遺伝子クローニング法によりα, βI, βII, γと少なくとも4種のサブタイプの存在が明らかにされている. Cキナーゼの多彩な役割の中で神経伝達機構に関わるサブタイプを解明するために, 各サブタイプの脳内分布を調べたところ, γタイプCキナーゼは深部小脳核に投射するプルキンエ細胞(γアミノ酪酸を伝達物質とする)の神経終末に存在し, 深部小脳核スライスからのγアミノ酪酸遊離がTPAによるCキナーゼの活性化で増大することが見出され, γタイプCキナーゼがγアミノ酪酸の遊離機構に関与することが示唆された. 今後, 本酵素の各サブタイプの局在を電顕レベルで解析することにより, Cキナーゼの役割を明らかにすることができると考えられる.
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