研究概要 |
レニン, アンジオテンシン系と心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は, 血管平滑筋や腎, さらに中枢神経系に作用して血圧と体液量の調節に対して拮抗的に働く. 主に, レニンは腎からの分泌, ANPは心房からの分泌により全身に作用する. 本研究は, ナトリウム摂取量を変動させた時, さらに自然発症高血圧ラットでのレニンmRNA量と, ANPmRNA量の変化を検討した. 高ナトリウム摂取により腎レニンmRNAは70%減少し, それに伴い腎レニン量は90%, 分泌量は80%減少した. 逆に, 低ナトリウム摂取によりレニンmRNAは5倍に, 腎レニンは約3倍に, 分泌量は17倍に増加した. 一方, 心房のANPmRNAは低ナトリウム摂取で減少し, 高ナトリウム摂取で増加した. ANPの分泌は, ANPmRNAの変動と一致したが, 心房のANP含量は変化しなかった. このことから, ナトリウム摂取量によるレニンmRNAの変動は腎レニン含量とレニン分泌によく相関するが, ANPmRNAは分泌とのみ相関した. この実験により, ナトリウム摂取量の変化により体液量を変化させた時, 腎と心房でのレニンとANPの生合成能をmRNAで測定することで把握できた. さらに, Wistar-Kyotoラット(WKY), 自然発症高血圧ラット(SHR)と脳卒中易発症性SHR(SHRSP)における腎レニンmRNAと心房のANPmRNAを検討した. 4, 8, 12, 20週目に腎レニンmRNA, 心房ANPmRNA, 肝アンジオテンシノーゲンmRNAの測定を行なったが, いずれも著明な差異を示さなかった. SHRSPでは20週目の血漿レニン活性が高値にもかかわらず, 腎レニン含量にも差を認めなかった. このことは, 従来からの報告と考え合わせると, SHRにおいては体循環のレニン, アンジオテンシン系よりも, 中枢神経系や組織中のレニン, アンジオテンシン系の重要性を示唆するものである.
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