研究概要 |
マウスの甲状腺におけるα_1アドレナリン受容体を介する甲状腺ホルモン分泌抑制作用のメカニズムを明らかにする目的で, α_1作動薬のマウス甲状腺イノシトールリン脂質代謝におよぼす影響を研究した. 1.マウス甲状腺におけるα_1作用がイノシトール3リン酸(IP_3)を細胞内情報伝達物質としている可能性を知るために, 〔^3H〕イノシトールとプレインキュベートした甲状腺を用い, α_1アゴニストによるIP_3生成をリチウム存在下で調べた. 10μMノルエピネフリン(NE)はIP_3その他のイノシトールリン酸の生成を増加した. 同様な作用はフェニレフリンにも見られたが, クロニジン・イソプロテレノールにはなかった. NEによるIP_3産生増加はプラゾシンで拮抗されたが, ヨヒンビン・プロプラノロールでは抑制されなかった. 従ってα_1受容体刺激はIP_3生成を促進すると考えられる. 2.IP_3がホスハチジルイノシトール4, 5ジホスフェート(TPI)より生じる時ジグリセリド(DG)が同時に生成する. 〔^3H〕グリセロールでラベルした甲状腺に100μMNEを作用すると, 30秒後にはDGの生成が増加した. このNEの作用はプゾシンで抑制される傾向があり, 恐らくα_1受容体を介すると考えられる. 3.〔^<32>P〕でラベルした甲状腺に100μMNEを作用させると約10分後にTPIの減少がみられた. しかし関与するα受容体サブタイプは明らかにできなかった. 以上から, マウス甲状腺ではα_1作動薬はIP_3生成を介し恐らく細胞内遊離カルシウム濃度を増加することにより, 甲状腺ホルモン放出を抑制する可能性が示唆される. しかし, IP_3と同時に生成するDGにより活性化される蛋白キナーゼCの役割も今後検討する必要がある.
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