研究概要 |
蛋白質のカルボキシメチル化反応の生理機能については現在でも暖味な点が多い. 我々は, 本酵素の生理的役割を明確にするには, まず細胞内のメチル基受容蛋白質を同定する必要があると考え, 脳組織や腹水肝癌細胞を用いてその解明を行ってきた. その結果次の知見を得た. (1)チュブリン及び高分子量微小管結合蛋白質が本酵素の良好な気質であること, (2)しかし, 用いた基質蛋白質に比較してメチル化される蛋白質の分子数はかなり少なく, その割合はチュブリンで0.2%であり, 高分子量微小管結合蛋白質で2%にしか過ぎないこと. 最近, 本反応の生理機能が蛋白質の老化に伴って生じたアミノ酸の異常側鎖の修復にあるという説が有力になっているが, (2)で得られたこの低いstoichiometrvはこの説を支持するものと思われる. (3)蛋白質の老化という観点から幼若ラットと老化ラットの脳のカルボキシメチル基受容蛋白質の分布の差異を検討した所, 老化ラットの細胞質には30KDの強くメチル化される蛋白質が減少していること. 細胞分裂という観点からは脳細胞とは対極にあると思われる癌細胞や胎児肝細胞を用いて, そのメチル基受容能を測定した. その結果, 正常肝細胞や胎児肝細胞の細胞質には, メチル基受容蛋白質が殆ど検出されなかったのに反し, 肝癌細胞(AH130)ではチュブリン及び高分子量微小管結合蛋白質が高度にメチル化されることが分かった. 癌細胞に活発にメチル化される異常なチュブリンや高分子量微小管結合蛋白質が存在することは極めて興味深い. 今後は上述のような脳と癌細胞で観察された事実の生理機能について更に追究してゆきたい.
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