研究概要 |
申請者はラット脳において新しい【Ca^(2+)】,カルモデュリン依存性プロティンキナーゼ【II】(キナーゼ【II】と略す)を発見し、キナーゼ【II】が【Ca^(2+)】による神経機能の調節に重要な役割を果している可能性を明らかにした。また最近、申請者はキナーゼ【II】がATP,【Mg^(2+)】,【Ca^(2+)】,カルモデュリン存在下に自己リン酸化され、この自己リン酸化にともなって酵素活性が低下する現象を見出した。そこで、自己リン酸化による不活性化のメカニズムを解析し以下の結果を得た。(1)自己リン酸化反応は酵素の分子内反応によること,(2)自己リン酸化によりセリンとスレオニンの二種のアミノ酸残基がリン酸化されること,(3)自己リン酸化反応は【Ca^(2+)】,カルモデュリン存在下でのみ開始されるが、一度自己リン酸化反応が始まると【Ca^(2+)】が存在しなくても反応が継続し、最後まで進むこと,(4)自己リン酸化は酵素の他の基質蛋白質のリン酸化反応に比較して、ATPに対するKmが小さいこと,Naclなどによる阻害が小さいこと,基質蛋白によって阻害されないことである。つまり、自己リン酸化反応は独自に進む反応であり、周囲の条件にあまり影響を受けないこと,(5)自己リン酸化によりとり込まれたリン酸基は蛋白質脱リン酸化酵素によって脱リン酸されること,(6)自己リン酸化の量が増加するにともないキナーゼ【II】の活性が低下すること,(7)自己リン酸化により基質蛋白質のリン酸化反応が部分的に【Ca^(2+)】非依存性になること,(8)自己リン酸化によって不活性化した酵素は脱リン酸により活性が回復した。 以上のように、キナーゼ【II】の自己リン酸化反応において極めて興味深い性質が明らかとなった。このことは、神経刺激により細胞内に流入した【Ca^(2+)】がキナーゼ【II】を活性化し神経伝達などの生理的反応が遂行されると【Ca^(2+)】の濃度が減少しなくてもキナーゼ【II】が速やかに元の不活性な状態に戻り細胞機能が調節されることを示唆しており、極めて合目的な調節機構と考えられる。
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