研究概要 |
本研究では尿素サイクル酵素であるオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)に動力学的な異常を持つsparse-fur(spf)マウスを用い, そのアンモニア動態, 血中, 肝内, 脳内アミノ酸濃度の変動, 神経伝達物質の変化, ならびに灌流肝におけるアンモニアからの尿素合成能について検討した. spfマウスはオルニチンに対するkm値が大きくなった異常OTCを持つ. 血中アンモニアは離乳期に上昇した(高アンモニア期)が, その数週間後には正常に復する(適応期)という適応現象がみられた. 血中アミノ酸では適応期のグルタミンの増加, 両時期でのシトルリンとアルギニンの低下以外特異的変化はみられなかったが, 脳内では高アンモニア期に著しいグルタミンの増加, これと強い相関性を示すフェニルアラニン, チロシン, さらにはトリプトファンの増加がみられた. 神経伝達物質の検索から5-ヒドロキシトリプタミンから5-ヒドロキシインドール酢酸にいたる代謝が亢進していることが判明した. これらの変化も適応期には正常に復した. しかし脳内のシトルリンとアルギニンは低下した状態を維持した. OTC欠損のよい示標とされる尿中オロト酸は高アンモニア期に対照の20倍以上に増量していた. 適応期には低下したが, それでも対照の10倍と高いレベルを維持した. 適応期に血中アンモニアが低下する機構の1つにはこの時期に肝異常OTCが若干上昇することが関与する可能性が示された. 一方, 適応期の灌流肝における尿素合成能の検索ではオルニチン濃度の低い条件下では尿素合成能が対照にくらべ低いが, オルニチン高濃度条件ではほぼ正常の合成能となることが示された. これらの研究から血中アンモニアの上昇と全身のシトルリンとアルギニンの低下および尿中オロト酸上昇とは若干異なる機構が働いている可能性が示されており, 今後さらにそれらの機構について追及する必要性がある.
|