研究概要 |
1.犬総頸動脈と外頸動脈の間に内吻合を作成することにより, 総頸動脈(吻合部より中枢側)に血流量の変化を惹起できた. この実験系を用いて血流量の負荷(内径の変化が少い時にはずり応力:Shear Stressの負荷)による総頸動脈の形態学的変化を観察することができた. 2.内皮細胞の変化はすでに負荷後1週においてみられ, 核部分の突出, マイクロビリの増加, ピノサイトティックベジクルの乱れをみる. 細胞内マイクロフィラメントの増加は血流負荷に比例してみられた. 負荷後2週から4週になると内皮細胞の密度が増大し1平方ミリメートル当り6,000にもなる. 反対側(吻合してない側)は約3,000で, 正常は約2,000である. 核は葉巻型で,細胞は細く短くなる. しかし体積は軽度小さくなる. ブロモデオキシウリジンの内皮細胞核内への取込みをみとめ, この細胞の増加が細胞分裂による増殖であることを証明できた. 基底膜は1週から明らかな肥厚をみとめた. また内弾性板の断裂と重層化が4週にみとめられた. 3.中模層は4週に弾性線維が目立ち始め, 6ないし12ヶ月には明らかな弾性線維の増加をみた. 外膜層の変化は明確な所見を得られなかった. 4.ラットにおいても犬におけると同様の内吻合を行った. その結果内皮細胞の変化は犬におけるとほぼ同様の変化をみた. 5.以上より, 血流量の変化により動脈はその形を刻刻と変化させている事が分かった. その変化の中心は内皮細胞で, ずり応力(Shear Stress)がその原因と考えた. このように動脈が血流量またはずり応力(Shear Stress)と平衡状態を保ったかたちでその形態をしめすことは今まで充分に把握されていなかった. このことは今までのように血管が動的変化のないstaticなものであるという考えをもとにした研究から一歩踏み出すことになるであろう.
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