研究概要 |
本研究では主として神経系組織に感受性を有する化学発癌物質のEthyl-nitrosourea(ENU)及びその同属体であるmethyl-nitrosourea(MNU)の皮下或は静脈内一回投与により神経系, 腎組織の間質及び乳腺などに高頻度に腫瘍誘発が可能である. 更にこれら誘発腫瘍は各臓器において動物の系統差により発現頻度に差を示すことが明らかになった. 本研究ではLong/Evans(LE), Wistar/Furth/Naito(wFN)及びそのF_1ラットを用いてENUを新生仔期に一回投与し, 脳神経及び脊髄神経根に発生した末梢神経腫瘍を観察した結果, LEラットでは高頻度を示し, wFラットでは低頻度であり, F_1ラットではその中間値を示した. この結果は, LEのdominat geneとWFのrecessive geneが共通にF_1に発現し, メンデルの法則に従った現象と考えられた. 同様の実験で, LE, wFN及びそのF_1(wF×LE), F_2(F_1×F_1)の雌ラットを用いてMNUの一回投与により発現した主として腎腫瘍について, その発現率を観察した. その結果, 腎腫瘍はwFN系で50%, LE, F_1では0%, F_2では16%であった. この結果, MNU誘発腎腫瘍ではLE系の腫瘍抑制遺伝子の発現がより強力に発現した腎腫瘍はwFNのdominat geneの影響と考えられた. 一方, 本実験系での乳癌発現率はLE, F_2ともに20〜30%の割合で発現し, wFNのみ50%の発現を示した. 従って, 乳癌発現ではLEの癌発現遺伝因子のみに支配されている可能性が示された. (まとめ)動物を用いた発癌実験において, 複数の発癌物質を用いた研究結果より1)単一の遺伝子支配を示す場合. 2)複数の遺伝子支配を示す場合の二つが示されている. これらの現象は以前動物の系統差として漠然と考えられていたものが発癌物質, 宿主遺伝子及び生体の増殖機構の三つの相関により発現することが明らかとなった.
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