研究概要 |
自己免疫病の発生原因の一つとして, 胸腺上皮細胞の機能不全が想定されるが, これまでこの仮説を直接的に支持する実験系はなかった. われわれはこの仮説を実証すべく, 免疫能のないBALB/Cヌードマウスの腎被膜下にラットの胸腺原基を移植することを試みた(TCヌード)ところ, その原基は上皮はラット, リンパ球はマウス由来のキメラ胸腺として, ほぼ正常の構築を保って発育し, ホストTリンパ球依存の免疫能の回復を認めた. しかしながら, 早期から多くの臓器で多彩な臓器局在性の自己免疫病が発生してきた. TCヌードの免疫・病理学的な解析から以下の事が明らかとなった. 1.TCヌードのヒツジ赤血球に対する抗体産性能は正常マウスの約半分まで回復していた. 同系マウス及び胸腺ドナーラットの皮膚移植片は完全に生着したが, 第三者のそれは直ちに拒絶した. 2.移植胸腺はマウス/ラットのキメラ構築を形成していた. すなわち, 上皮細胞はラット由来であり, ラットのIa抗原を発現していた. リンパ球は全てマウス由来であり, Thy-1.2, L3T4やLyt-2の発現は正常マウスのそれらとほぼ同じであった. 胸腺髄質の上皮細胞以外の多くの細胞はマウスのIa抗原を強く発現していた. 3.TCヌードには臓器局在性の自己免疫病が多発した. 発病臓器は, 甲状腺, 唾液腺, 眼, 胃, 副腎, 卵巣, 睾丸, 前立腺, 等である. 4.TCヌードの病変は, Flow oytometer(FACS)を用いて選択的に回収した, 脾細胞中のL3T4陽性細胞により同系のヌードマウスに高率にトランスファーすることができた. このTCヌードは免疫系の中枢である胸腺の機能を詳細に解析したり, さらに自己と非自己の認識機構を解析する大変優れた実験モデルになると期待できる.
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