研究概要 |
ネズミ糞線虫をラットに感染させると必ず頭蓋を通過することを先に示したが、頭部通過の意義は不明である。この現象を解明するため次の研究を実施した。 1.感染ラット頭部から回収した第3期幼虫(【L_3】)1000隻を正常ラット小腸に移植し、対照である頭部非通過【L_3】を対照ラットに入れた場合と比較した。その結果、実験群では4日〜14日の間にラット糞便内に虫卵排出が認められたのに対し、対照ラットでは13日頃わずかの虫卵が認められたにすぎなかった。次に小腸内成虫数を検討した。頭部通過【L_3】移植ラット群では、3日目で平均168.0隻,7日目で397.3,10日目で380.3,12日目で395.0の成虫が回収された。これと比較して、頭部非通過【L_3】移植群では、3日目で0,7日目で1.3,10日目で1.0,12日目で2.0と、わずかな寄生しか観察できなかった。また、これらの【L_3】を皮下接種すると、その移行時間は両群に差はなかったが、糞便内虫卵数は頭蓋通過【L_3】接種ラット群で頭蓋非通過【L_3】接種群の20%以下に減少し、成虫数も接種後17日目に頭蓋非通過群が平均375.0隻であったのに対し、頭蓋通過群では59.7隻と減少した。頭蓋通過【L_3】は皮下移行能力が減少していると考えられる。 2.ラット頭部への侵入経路と、頭部から消化管への下降経路を知るため、組織学的追求を実施した。このため【L_3】を抗原としてウサギに抗体を作らせ、この抗血清を用いて酵素抗体法により、組織内を通過する【L_3】を連続切片内で顕微鏡的に検索しつつある。この研究により、現在、頭部への侵入経路を追求している。 3.頭部へ【L_3】が誘因される理由を知るため、脳ホモジネート寒天を作成し、実体顕微鏡下に【L_3】の被誘因性を観察した。この結果、まだ脳抽出液のポジティブな【L_3】誘因性を認めていない。これらの実験から、【L_3】は頭部を通過することがその後の発育、寄生に必須であることが明らかにされた。頭蓋内にあって糞線虫【L_3】の発育に影響を及ぼす機構について検討中である。
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