研究概要 |
前年度にひき続き, 糞線虫症とATL合併の実態について疫学的立場から検討を加えた. 糞線虫保有者の間での抗ATLA抗体陽性率はほとんどの地域で50%を越える高い値を示し, 検査数の極端に少なかった地域を除けば抗ATLA抗体陽性率に地域差はみられなかった. 検査された132名の糞線虫保有者の間に, 抗ATLA抗体保有者でみられるような家族集積性はみられなかった. 抗ATLA抗体の年令別陽性率は, 糞線虫陰性者についてみると, 30才台以上のいずれの年令層でもあまり大きな差がみられなかったのに対し, 糞線虫陽性者の間では50〜59才台のピークとしてその前後でやや低いという結果を得た. 沖縄では糞線虫陽性者は男性において女性よりも2倍以上多いという結果がでているが, 抗ATLA抗体の陽性率で男女差はみられなかった. 糞線虫保有者の間で, 抗ATLA抗体陽性の有無による糞線虫に対する血清抗体レベルの間に差がみられないことを前年度において既に明らかにしたが, 糞線虫に対する血清抗体価と抗ATLA抗体価との間にはやはり相関は全くみられなかった. また, 患者血清を糞線虫抗原で吸収することによる抗ATLA抗体価にも大きな変化がみられず, 糞線虫抗原とATL関連抗原の間に何らかの共通成分あるいは交差反応成分の存在を認めることはできなかった. 更に, ネズミ糞線虫(Strongyloides venezuelensis)を用いて, そのDNAの検査法を確立し, これによってこれまでに3名の患者より集めた糞線虫幼虫についてそのDNAの解析を行なっている.
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