研究概要 |
本研究の目的は, Trypanosoma科原虫のモデルとしてCrithidia fasciculataの培養型虫体を用い, ピリミジンde novo合成経路初段3酵素CPSII(カルバミルリン酸合成酵素), ACTase, DHOaseを精製し, 酵素学的性質や調節酵素としての役割等を調べ, その結果を寄生蠕虫・哺乳類のものと比較して寄生原虫に独特な点を明らかにすることである. このような比較生化学的研究目的に沿ってC.fasciculataを大量培養し, そのhomogenateの遠心上清について硫安分画を行なったところ, CPSIIは33-50%画分に, ACTaseは50-80%画分に沈澱した. すなわちこれらの酵素は寄生蠕虫や哺乳類のCAD(3酵素)複合体と異なり, 独立の酵素であることが明らかとなった. そこで特に初段酵素であることを重視してCPSIIに焦点をしぼって研究を進め, CrithidiaのCPSIIはグルタミン(Gln)依存性酵素であり, 哺乳類・蠕虫のものと異なり, 原核生物型に類似で, ピリミジン合成経路の調節酵素として機能し, UDP, UTPによる強いフィードバック阻害を受けるが, 動物・蠕虫と異なりPRPPによる活性化はみられない等の特徴を認めた. さらにGln拮抗剤(抗腫瘍剤)acivicinのCPSIIに対する作用をin vitroで調べ, 本薬剤はCPSIIのGln依存性活性を拮抗阻害し, Gln非添加の条件では同活性を時間依存的・非可逆的に不活性化すること, すなわちactive site-directed affinity analogとして作用し, affinity labeling機構によりCPSIIを失活させることが判明した. さらに無血清培地GITで培養したCrithidiaにacivicinを添加した結果, この抗腫瘍剤は著しく増殖を阻害し, 第1の標的はGMP合成酵素, 第2はCTP合成酵素(両者ともGln依存性)であると推定された. またacivicinはin vivoでもin vitroと同様CPSIIを不活性化した. 以上より, この系はTrypanosoma科寄生原虫の実験モデルとして発展性の高いものと期待され, 他剤との併用効果, 抵抗性株作出を検討中.
|