研究概要 |
BCG菌は, リボソームRNA遺伝子を1つ持つ事, 又, 大腸菌のRNAポリメラーゼが認識する事の出来るプロモータを1つ持つ事が, 明らかとなった. 大腸菌では7つのリボソームRNA遺伝子, 2つのプロモーターを持つのに, である. この事とヒトの病気との関連について以下に述べる. rRNA遺伝子の研究成果から, BCG菌では恐らくリボソームRNAの合成量も少なく, 従って, リボソームの数も少ないであろう. この事は, BCG菌の遅発育性と無関係ではないだろう. そもそも結核菌は何故遅く増殖するのかその理由は不明である. 数千以上の酵素反応が関与し, 数百以上の酵素反応制禦系が関与していると考えられよう. そして今, 蛋白合成系に限って云えば, 遅発育性に適した制御機構が次第に分って来た. この遅発育性と, 結核菌が多くの脂質を含む事が, その特有な細胞寄生性病理像を作っている事となって居り, 従って, 本研究は結核病理の分子機構に新しい知見を提出していると云える. リボソームRNA遺伝子の塩基配列の比較研究は, 進化論的研究の有力な手段となっているが, 最近, この分野の業績は, 次に述べる様に医療に応用される様になった. リボソームRNAの塩基配列を観察すると, 広い菌種で保存されている部分と, 菌種により異なる部分がある. この点を利用し感染症のプローブ診断が出来る. 細菌は数多くのリボソームを有し, 従って, リボソームRNAも多い. 各菌種にユニークな塩基配列を人工合成し, これをプローグとして用いる. BCG菌の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列の研究は, その点でも, 重要な知見を提供する事になった.
|