研究概要 |
日本の農業では狭い耕地面積で多量の収穫や省力化を目的として, 多種類の農薬が大量に使用されている. 各々の農薬については安全性が検討されているが, それらの分解生成物の毒性についてはほとんど検討されていない. そこで我々は農薬の分解生成物の対生物影響を知る目的で以下の実験を行った. 試験薬剤としては広島県下で最も多く使用されている有機リン系殺虫剤の1つであるフェニトロチオン(MEP)乳剤を使用した. pH8, pH10, pH14に各々調整されたMEP乳剤を加温しつつ, 冬期の自然光に曝露し, 分解した. 分解開始時のMEPの約90%が分解した時点で分解操作を終了し, 分解原液とした. 動物曝露実験にあたっては, これらの分解原液を各々所定のMEP濃度に稀釈したもの(分解液)を使用した. 実験室内で得られたメダカ卵を所定のMEP濃度の3種分解液及び未分解液(未分解のMEP乳剤を脱塩素水道水で所定のMEP濃度に稀釈したもの)の中で受精後4〜5時間以後5日間曝露した. その後脱塩素水道水に移し, 3ヶ月魚に達するまで飼育した. 一方妊娠マウスに対する実験では, 所定のMEP濃度の3種分解液及び未分解液を妊娠マウスの背部皮下に, 妊娠第3日目から第15日目まで連続投与し, 妊娠第18日目に開腹し, 胎仔を観察した. また, Behrens法を用いて3種分解液及び未分解液のLD_<50>を求めた. 被曝露メダカ卵飼育実験の結果から, ふ化率及び3ヶ月魚生存率は未分解液より3種分解液の方で低い傾向を, また異常仔魚発生率は3種分解液で高い傾向を示すことが認められた. 妊娠マウスに対する毒性実験の結果から, 分解液が母獣の死亡, 胎仔体重の低下, LD_<50>の低下に未分解液より強く影響する場合があることが認められた. 以上の結果から, 分解生成物の毒性も無視できないことが指摘され, 従って農薬の安全性を検討する時, 分解生成物の対生物影響をも考慮に入れる必要があるものと思われる.
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