研究概要 |
1987年8月に長崎県厳原町佐須, 熊本県津奈木町A地域, 長崎県崎戸町江島の住民388人の早朝尿を採取した. 厳原はカドミウム土壌汚染地域であったが1984年に汚染水田の復元工事(客土法)が完了して4年経過した. 同住民のカドミウム摂取量は復元前の250μg/日から復元後の700g/日に減少して日本人の平均摂取量は50μg/日に近づいた. 津奈木は公害健康被害補償法-水俣病-指定地域であり昭和30年代に魚介類を介して激烈な有機水銀暴露を受けた地域である. 崎戸は五島灘に浮かぶ小離島であり, 農漁業を主とする人々が住み, 環境汚染のない対照地域である. 検査項目はカドミウム体内負荷量の異常を知る指標として尿カドミウム, ならびにカドミウムによる尿細管機能異常の指標としての尿β_2-マイクログロブリンである. 厳原町佐須住民については1979年, 1982年の2回にわたり住民全員の尿カドミウム, 尿β_2-マイクログロブリンを測定しているので, これらの成績と比較した. カドミウム汚染が続いていた1984年以前と今回の検診の両方を受診した61人の成績より以下のことが明らかとなった. すなわち, 1979年当時の尿カドミウム, 尿β_2-マイクログロブリンからみてカドミウム生体負荷量および尿細管機能のいずれも, 特別のことがないか, あっても軽度異常であったものは, 汚染解消後もひきつづき異常がないか, 好転している. このような住民はすべて若年層で同地域での居住年数が短かかった. 一方, 1979年当時に中〜高度の尿細管機能異常を呈した住民は汚染解消後も異常は持続して回復の傾向はなく, 尿カドミウムも高値のままであった. これらの住民は高年齢・長居住歴のものであった. 津奈木住民の尿カドミウム, 尿β_2-マイクログロブリンは対照と差がなく, 過去の有機水銀暴露はカドミウム出納に影響せず, 尿細管機能にも影響を及ぼさないと考えられた.
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