研究概要 |
今回、n-ヘキサンの代謝物質2.5-ヘキサンジオンの神経毒性機序を明らかにするために、この物質の原子構造特性の量子化学的解明を試みた。 2.5-ヘキサンジオンに化学構造が類似する炭素数4から8までのジケトン化合物即ちサクシンジアルデヒド,3.4-ジメチル-2.5-ヘキサンジオン,2.5-ヘキサンジオン,2.5-ヘプタンジオン,2.5-オクタンジオン等15物質の分子軌道エネルギー特に最高被占軌道及び最低空軌道エネルギー並びにすべての原子の電子密度を岡崎市の国立分子科学研究所のプログラムを用いて、熊本大学衛生学教室に購入設置したマイクロコンピュータにより電話回線を介して計算した。 その結果、電子供与性のパラメータであるHOMOは神経毒性との間に全く相関はみられなかったが、LUMOは、神経毒性が未知のサクシンアルデヒドを除いて神経毒性との間によい相関が認められる。即ち、2.5-ヘキサンジオンの電子的特性は電子受容性であることが明らかとなり、生体の側の反応部位は求核攻撃を有するものであることが推定される。2.5-ヘキサンジオン中毒ラットの神経の病理組織学的変化から神経蛋白のアミノ酸残基が最も考え易いが、これらの中で、-N【H_2】,-SH,-OH基などが求核基として特に指摘できる。 電子密度は予想される如く、カルボニル基のC原子及びO原子のそれが他のものと異っており、特に求核攻撃の対象としてカルボニル基のC原子であることが量子化学的に解析できた。 以上の結果から、毒性研究への量子化学的アプローチの有用性が示唆された。更に、構造に関する研究と共に求核攻撃の方向や結合に要するエネルギー等について量子化学的に検討を加えていく必要がある。
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