研究概要 |
薬物中毒の培検材料, 特にホルマリン固定された臓器標本や, 組織切片標本しか存在しない様な場合にもそれから中毒物質を検出したり, その薬物の局在性を立証する事が, 法医中毒学的な検索では重要なことと考えられる. そこで, 種々の薬物のうち, アクリノール中毒は培検例を中心に, また他の薬物はモデル実験として動物実験を中心に組織標本で中毒物質の局在性の証明方法について検討した. その結果, アクリノールはそれ自身が蛍光性を示し, さらに取り込まれた細胞内では, 核酸と結合するという性質がある為に, ホルマリン固定した臓器の凍結切片だけでなく, パラフィン切片からでさえ, 蛍光顕微鏡や顕微蛍光分光法装置を用いることにより容易に検出・同定が可能であった. この方法は強い蛍光性を示す薬物による中毒例, たとえばフルオレッセン投与に伴う急死例にそのまま応用出来たが, それ以外の医薬品中毒の例での蛍光組織化学的な検討は十分出来なかった. 一方, 蛍光組織化学的な分析での問題は, 第一に薬物の蛍光強度は一般に, あまり強くないこと, 第二に分析の為に紫外線を照射すると, 容易に蛍光強度に低下が見られること, 第三に永久組織標本にしにくい事があげられる. したがってこれらの諸問題を解決する為に目的とする薬物の誘導体をハプテン抗原として, 抗体を作成し, それを用いた免疫組織化学的手法で中毒薬物を検出するという分析方法を開発した. この方法で薬物の局在性を検索するためには第一に, 反応に用いる抗体の特異性の十分な究明と非特異反応の抑制が重要であった. 第二に, 目的とする薬物が, 検体の切片上で, 抗体が認識出来る様な形で局在する必要があり, 組織固定にはグルタールアルデヒドとパラフォルムアルデヒド混合液を用い, 0〜4°C, 3時間という狭い固定条件が必要であった.
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