研究概要 |
臨床的に血中の中分子量域(分子量1500-5000)の物質を除去する治療により劇症肝炎患者の昏睡が覚醒する事から, 劇症肝炎患者の血中の中分子量域に何らかの昏睡起因物質が存在する可能性が想定されている. われわれは, その中分子質睡起因物質を肝不全のため肝で代謝されず, 血中に蓄積し, 脳内へ移行するペプタイドと想定し, 急性肝不全ラットにトレーサー・アミノ酸を投与して, それを組み合んで血中と脳中に出現する中分子量物質の分離同定を試みた. 〔方法〕急性肝不全ラットは, ウイスター系ラットに20mg/kgのデイメチル・ニトロサミンを隔日4回投与することで作成した. 正常ラットを対照とし, 急性肝不全ラットに50ないし250μCiの^3H-Leu,^<14>C-Leu,^3H-Met,^3H-Tyr,^3H-Trpを投与し, 24時間採血, 採脳した血清と20%脳ホモシエネートを試料とし, セファデックス(SG)25, 送相系高速クロマトグラフィー(RPHPLC), 薄層グルクロマトグラフィー(TLC)を使用して, 上述のトレーサー, アミノ酸を取り込んで出現する中分子量物質の分離精製を行った. 〔成績〕SG25により, 血中と脳中の中分子量域に少くとも Leu,Met,Trpを取り込んで出現する中分子量物質を分離する事ができた. また, RPHPLCにても, 肝不全ラットに特異的に親水性の高い物質として放射性のピークが分離された. 血中ではSG25により3峰性の中分子の放射性ピークが認められたが, 脳では移行性の差のため1峰のみが分離された, SG25,RPHPLC,TLCを組み合わせ, 脳中の放射性中分子量物質をほぼ単一物質に精製した. 〔結論〕トレーサー実験法により劇症肝炎時中分子質睡起因物質を精製した. 今後構造決定の上, 劇症肝炎の早期診断, 肝性脳症の発現機序の解明などの臨床応用の予定である.
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